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老後の生活を左右する「年金」。
何歳から、どのくらいもらえるのか——そして繰り上げ・繰り下げでどれほど差が出るのか。
本記事では、60歳・65歳・70歳の損益分岐点を“手取りベース”で比較しながら、在職年金・3号・加給年金などの関連制度、そして受け取り方の手続きまでをやさしく整理します。将来の制度変更にも対応できるよう、「制度を知る × 生活に落とし込む」視点で解説しています。
📘 この記事でわかること
💡 年金受給の基本と損益分岐点
・60歳・65歳・70歳の受取差を“手取り”で比較
・繰上げ・繰下げの判断基準と注意点
💡 手取りに影響する税・社会保険の基礎
・非課税ラインと公的年金控除の仕組み
・住民税・介護保険料まで含めた実質の可処分額
💡 在職・配偶者・出口戦略の考え方
・働きながら受け取る場合の支給停止ライン
・加給年金・3号の仕組みと注意点
・iDeCoや配当との組み合わせによる“出口戦略”
年金は何歳から・いくら?3つのモデルで見る早見表(2025年版)

老後の生活設計を考えるうえで、まず押さえたいのが「年金はいくらもらえるのか」。
ここでは、夫婦が**同じ年齢(65歳)である前提で、代表的な3つの世帯パターンを比較します。あわせて、60歳・65歳・70歳受給開始時の違いも早見表にまとめました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 年齢 | 夫婦ともに65歳(同年齢) |
| モデル年収 | 平均年収500万円(厚生年金加入) |
| 国民年金 | 満額6.8万円/月 |
| 厚生年金 | 約14.3万円/月 (平均報酬500万円・40年勤務) |
| 繰上げ・繰下げ率 | 1か月あたり±0.7%(5年=±42%) |
| 手取り | 所得税・社会保険料控除後で約90%想定 |
| 想定寿命 | 85歳まで |
単身(1人分の老齢基礎+厚生年金)パターン
単身の場合の年金は、「基礎年金(国民年金)」+「厚生年金」を単純に合計すればOKです。基礎年金は全国民共通、厚生年金は収入と加入年数に比例して増えます。計算は以下のようにシンプルです。
| 受給開始 年齢 | 月額額面 (約〇万円) | 月額手取り (約〇万円) | 年額手取り (約〇万円) | 累計手取り (85歳約〇万円) | コメント |
|---|---|---|---|---|---|
| 60歳 | 15.2 | 13.7 | 165 | 4,125 | 早く受け取れるが一生減額(−24%) |
| 65歳 | 20.8 | 18.7 | 224 | 4,935 | 標準的な開始年齢 |
| 70歳 | 29.5 | 26.5 | 318 | 5,730 | +42%の増額、長寿リスクに強い |
💬 ポイント:
繰上げ(60歳)で早く受け取ると一見得に見えますが、生涯減額されるため「寿命82歳」が損益分岐点。長生きするほど繰下げ(70歳)が有利になります。
夫婦(夫=会社員・妻=専業主婦/同年齢)パターン
夫が厚生年金、妻が国民年金という最も一般的なパターンです。一見、単身より大幅に増えるように見えますが、実際は「1.3倍程度」しか変わりません。
その理由は
- 妻は国民年金のみ(満額でも月6.8万円)で、厚生年金ほど上乗せがない
- 夫の厚生年金は1人分の報酬に基づくため、世帯合算で大きな跳ね上がりはない
- 同年齢の場合、加給年金(配偶者加給)は発生しない
このように、年金制度上は「専業主婦世帯が特別に有利」というわけではありません。
| 受給開始 年齢 | 月額額面 (約〇万円) | 月額手取り (約〇万円) | 年額手取り (約〇万円) | 累計手取り (85歳約〇万円) | コメント |
|---|---|---|---|---|---|
| 60歳 | 20.0 | 18.0 | 216 | 5,400 | 妻も繰上げ受給、加給なしモデル |
| 65歳 | 27.9 | 25.1 | 301 | 6,775 | 標準的な老後の生活像 |
| 70歳 | 39.7 | 35.7 | 429 | 7,947 | 夫婦とも繰下げで長寿リスクに強い |
💬 ポイント:
同年齢夫婦では加給なしのため、単身パターンに比べて受給額は約1.3倍にとどまります。生活費は2人分になるため、「支出と収入のバランス」が老後の安定を左右します。
夫婦共働き(2人とも会社員)パターン
夫婦それぞれが厚生年金に加入しているパターン。単純に「単身パターン×2」で考えがちですが、実際の手取りはやや少なくなります。
理由は以下のとおり
- 所得税・住民税・介護保険料がそれぞれの年金から個別に控除される
- 控除の重複がないため、合算後の「世帯手取り率」が下がる
- 共働きでは加給年金がつかない
結果として、単身パターンの2倍ではなく「1.9倍前後」に落ち着きます。
| 受給開始 年齢 | 月額額面 (約〇万円) | 月額手取り (約〇万円) | 年額手取り (約〇万円) | 累計手取り (85歳約〇万円) | コメント |
|---|---|---|---|---|---|
| 60歳 | 29.4 | 26.5 | 318 | 7,950 | 名目は多いが税・保険料負担が大きい |
| 65歳 | 42.2 | 38.0 | 456 | 10,260 | 世帯収入として高いが課税も増加 |
| 70歳 | 60.0 | 54.0 | 648 | 11,664 | 長寿世帯では最も有利な構成 |
💬 ポイント:
額面上は最も多いものの、社会保険料・税が2人分発生するため、手取りは単身の単純2倍にならない。共働き世帯は「実質手取り」と「税引後の可処分所得」で判断するのが大切です。
加給年金|夫婦で年齢が異なる場合の考え方
ここまでの3パターンは「同年齢」が前提でしたが、実際は夫婦で年齢差があるケースが一般的です。夫が65歳で受給を開始し、妻が65歳未満の場合、妻の年金が始まるまで「加給年金(約2万円/月)」が上乗せされます。
| 妻の年齢差 | 加給期間 | 加給合計額(概算) | コメント |
|---|---|---|---|
| 妻が2歳年下 | 約2年 | 約48万円 | 標準的なケース。短期間の上乗せ |
| 妻が5歳年下 | 約5年 | 約120万円 | 加給期間が長く有利 |
| 妻が同年齢 | なし | なし | 加給なしモデル |
💬 ポイント:
加給は妻の年金開始(65歳)で終了します。繰上げ受給を選ぶと加給そのものが消えるため、夫婦年齢差がある家庭では繰上げ非推奨です。受け取り開始時期と加給の関係を把握することで、「もらい損」を防げます。
ここまでの比較で、「世帯構成」と「受け取り年齢」によって、年金額には大きな差が出ることが分かりました。しかし、実際の生活で使えるお金――いわゆる「手取り」は、表にある金額よりさらに変動します。その理由は、
- 年金にも税金(所得税・住民税)がかかること
- 介護保険料・国保・扶養控除などの要素で世帯差が広がること
- 「共働き」「パート収入あり」など働き方次第で控除や課税ラインが変化すること
といった、見落としがちな仕組みにあります。次の章では、これらを踏まえて――「手取りで考える年金」をテーマに、税・社会保険・控除の基礎と、損を防ぐための考え方を解説します。
| 世帯パターン | 65歳時の手取り月額 | 想定生活水準 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 単身 | 約18.7万円 | 一人暮らし向け | シンプルで損益判断しやすい |
| 夫婦(専業) | 約25.1万円 | 標準的な2人暮らし | 加給なし・支出増に注意 |
| 共働き | 約38.0万円 | ゆとりある生活 | 高所得・課税影響に留意 |
手取りで考える:税・社会保険・控除の基礎
前章では「もらえる年金の額面」を比較しました。しかし実際の生活に使えるのは、税金・社会保険料を差し引いたあとの“手取り”です。この章では、年金の「課税ライン」「控除」「社会保険料」をふまえ、同じ年金額でもなぜ手取りが違うのかをわかりやすく整理します。
公的年金等控除+基礎控除の要約
年金にも税金はかかりますが、すべてに課税されるわけではありません。一定額までは「非課税」になる仕組みがあり、ほとんどの高齢者は軽課税〜非課税で済みます。この3ステップを理解すれば、「自分の年金が課税対象かどうか」がすぐに判断できます。
1️⃣ 年金収入 − 公的年金等控除 = 年金所得
👉 控除額は年齢と年金額で変動。65歳以上は最低110万円控除されます。
2️⃣ 年金所得 − 基礎控除(48万円) = 課税所得
👉 年金だけなら「110万円+48万円=158万円」までは非課税ライン。
3️⃣ 課税所得 × 税率 − 控除額 = 税額(所得税+住民税)
この仕組みを知っておくと、「年金を繰下げた場合」「働きながら受け取る場合」でも、
どの程度が課税されるかをイメージできます。
65歳以上の非課税ライン
「いくらまでは税金がかからないのか?」を、年金額ベースで確認できます。基礎控除と年金控除を合計すると、多くの年金生活者が非課税〜軽課税ゾーンに収まることがわかります。
| 年金収入 (額面) | 控除合計 (公的年金等控除+基礎控除) | 課税所得 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 約155万円 | 約158万円 | 0円 | 非課税(住民税・所得税ともに0) |
| 約180万円 | 約158万円 | 約22万円 | 所得税ほぼなし、住民税軽課税 |
| 約250万円 | 約158万円 | 約92万円 | 所得税・住民税合わせて約6〜7万円程度 |
💬 補足:
自治体によって若干の差はありますが、年金収入180万円程度までは住民税非課税〜軽課税圏内が目安です。住民税非課税世帯は、医療・介護・光熱費などで優遇措置も受けられます。
15万・20万・30万もらうには?(目安年収・課税の違い/夫婦合算注意)
「手取りで月15万・20万・30万円もらうには、年金額はいくら必要か?」という視点で整理すると、老後資金の“リアルな使える額”が見えてきます。
| 手取り月額 | 額面年金収入 | 所得税+住民税 | 手取り率(目安) | コメント |
|---|---|---|---|---|
| 約15万円 | 約16.5万円 | ほぼ非課税 | 約90% | 単身なら非課税ゾーン |
| 約20万円 | 約22万円 | 年5〜6万円 | 約87% | 控除枠を超えるが軽課税 |
| 約30万円 | 約33万円 | 年15〜18万円 | 約82% | 共働き・高年金世帯に多い |
💬 ポイント:
- 「手取り=額面の85〜90%」が目安。
- 夫婦それぞれに控除があるため、合算せず個別に計算が必要。
- 年金+パート収入があると、扶養・控除の変動で課税ラインが上下します。
介護保険料・住民税の影響
年金からは、介護保険料・後期高齢者医療保険料・住民税も天引きされます。これらは自治体や前年所得によって異なるため、全国平均の目安をもとに整理しておきましょう。
| 項目 | 月額目安 | 年間目安 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 介護保険料 | 約6,000〜10,000円 | 約7〜12万円 | 所得段階により7区分あり |
| 後期高齢者医療保険料 | 約5,000〜8,000円 | 約6〜9万円 | 75歳以上対象 |
| 住民税 | 0〜8,000円 | 0〜10万円 | 所得次第で非課税〜軽課税 |
💬 ポイント:
- 所得が増えると、税だけでなく社会保険料も上昇します。
- 住民税非課税世帯(年金+所得=158万円以下)は、医療・介護・公共料金などで優遇措置あり。
- 手取りを把握するには、「税金+保険料の合計負担率」を見積もるのがコツです。
ここまで見てきたように、同じ年金額でも「税金・住民税・介護保険料」の負担によって実際の手取りは1〜3万円単位で変わります。
つまり、「年金はいくらもらえるか?」ではなく、“いくら残るか(手取り)で老後を設計する”ことが本質です。次の章では、この手取りを踏まえて、「どの年齢から受け取ると最も得か?」=繰上げ・繰下げの損益分岐点を詳しく見ていきましょう。
年金の受け取り年齢の決め方:繰り上げ・繰り下げの損益分岐点

ここまでで年金の「額面」と「手取り」の違いを整理しました。次に多くの人が悩むのが、「いつから受け取るのが一番お得なのか?」という点です。
年金は60歳から70歳までの間で、受け取り開始年齢を自由に選べます。しかし、早くもらえば減額、遅くもらえば増額となり、損得は「寿命」と「生活資金の余裕」で変わります。ここでは、繰上げ・繰下げの損益分岐点と判断基準を“手取りベース”で整理し、最後に投資を組み合わせた考え方も紹介します。
損益分岐点の目安:82歳が分かれ道
繰上げ・繰下げは、「どちらが得か?」というよりも“何歳まで生きるか”で変わる選択です。標準の65歳受給を基準にすると、損益分岐点はおおむね82歳前後。つまり、82歳より早く亡くなる場合は繰上げが得、長生きするほど繰下げが有利になります。
| 受給開始 年齢 | 月額 (手取り) | 年額 (手取り) | 85歳までの累計 (手取り) | コメント |
|---|---|---|---|---|
| 60歳 | 約13.7万円 | 約165万円 | 約4,125万円 | 早く受け取れるが一生減額(−24%) |
| 65歳 | 約18.7万円 | 約224万円 | 約4,935万円 | 標準的な開始年齢 |
| 70歳 | 約26.5万円 | 約318万円 | 約5,730万円 | +42%の増額、長寿リスクに強い |
この表からわかるように、繰下げは「長く生きるほど得」になる仕組みです。ただし、70歳まで生活資金をどう確保するかが重要なポイントになります。
繰上げ受給:早くもらえるが“戻せない”減額リスク
繰上げ受給は60歳から可能で、「早くもらえる安心感」はありますが、実は一度選ぶと一生減額されたまま戻せない等、以下のリスクがあります。
| 注意点 | 内容 |
|---|---|
| 生涯減額 | 1ヶ月早めるごとに−0.4%(最大−24%)の減額が一生続く |
| 失業手当と重複不可 | 年金を先に申請すると失業給付が受け取れなくなる |
| 在職老齢年金との調整 | 働きながら受給すると一部カット(51万円超で半額停止) |
| 障害年金の権利喪失 | 繰上げ受給すると将来の障害年金を請求できない |
| 加給年金が消滅 | 妻が年下でも加給(約2万円/月)が受けられなくなる |
短期的には安心感がありますが、長生きすればするほど「受け取り総額の差」が拡大するため、慎重な判断が必要です。特に健康状態や家族構成、働く期間などを踏まえて、“早くもらう安心”と“将来の安定”のどちらを重視するかを考えましょう。
繰下げ受給:長寿リスクへの備えと心理的ハードル
繰下げ受給(66〜70歳)は、1か月遅らせるごとに0.7%増える仕組みで、70歳まで繰下げれば42%の上乗せになります。これは年利換算で約8%に相当し、確定的に増やせる“無リスク運用”に近い効果があります。
たとえば、65歳から月18.7万円の人が70歳から受け取ると、月26.5万円に増えます。
この増額は生涯続くため、長寿リスクに強い設計です。
| 受給開始年齢 | 増額率 | 手取り月額 | 年額 (手取り) | コメント |
|---|---|---|---|---|
| 65歳 | ±0% | 約18.7万円 | 約224万円 | 標準モデル |
| 68歳 | +25% | 約23.3万円 | 約280万円 | 3年間遅らせると約+56万円/年 |
| 70歳 | +42% | 約26.5万円 | 約318万円 | 長寿リスクに強いが 「貯蓄でつなぐ期間」が必要 |
ただし、受け取りを遅らせる間の生活費を別で賄う必要があり、資産や収入が一定程度ある人でないと実践は難しいでしょう。「受け取る前に亡くなったら一円ももらえない」という不安もあり、経済的余裕と心理的余裕の両方が必要です。
したがって、繰下げは「老後後半の生活を安定させたい人」に向いており、退職金・配当金・iDeCoなどでつなげる資金計画があると有効です。
「繰り上げて投資」も選択肢?|実質利回りで見る考え方
繰上げや繰下げを判断する際には、「もらうタイミング」だけでなく、「もらったお金をどう使うか」という視点も重要です。もし繰上げ受給によって得た年金を投資に回せるなら、投資の利回り次第では繰下げを上回る可能性があります。
| 選択 | 年金増減率(確定) | 投資リターン(想定) | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 繰上げ(60歳) | −0.4%/月(−24%) | 年+4〜5% | 投資できれば有利だが リスクあり |
| 標準(65歳) | ±0% | 年+3〜4% | バランス型・無難 |
| 繰下げ(70歳) | +0.7%/月(+42%) | 年+2〜3% | 長寿リスク対策・確定増額 |
繰下げの+0.7%/月は確定利回りに近い“保証リターン”ですが、投資で年4〜5%を安定的に得られる人なら、繰上げて投資をするという“攻めの戦略”も理論上は成り立ちます。
ただし、実際には相場変動や制度面の制限もあり、誰にでも勧められる選択ではありません。投資経験があり、リスクを理解したうえで行動できる人に限られます。
結果として、「確実な+0.7%を取るか、投資で値動きのある+4〜5%を狙うか」は、“お金を増やすか、守るか”という生き方の選択に近いテーマです。
繰上げは短期の安心、繰下げは長期の安定をもたらします。どちらが得かではなく、「どんな老後を送りたいか」で最適な選択は変わります。次の章では、働きながら年金を受け取る場合や、配偶者・加給年金などが加わるケースを取り上げ、より実践的な年金設計を考えていきます。
在職・パートしながら受け取る:支給停止と収入ライン

年金を受け取りながら働く人は年々増えています。一方で、「働きすぎると年金が減る」「扶養を超えると手取りが減る」といった声も多く、仕組みを正しく理解しておくことが大切です。
ここでは、働きながら年金をもらう場合の支給停止ライン(在職老齢年金)と、パート・短時間勤務での手取りを最大化する考え方を解説します。
在職老齢年金の基礎(合算基準・停止の仕組み)
「在職老齢年金」とは、年金を受け取りながら働く人のうち、給与と年金の合計が一定額を超えると一部支給停止になる制度です。65歳未満と65歳以上でルールが異なりますが、特に重要なのは65歳以上の支給停止ライン「月51万円」です。
仕組みの基本
65歳以上の場合、「給与(標準報酬月額)+年金月額(厚生年金部分)」の合計が 51万円を超えると、超えた分の半分が年金から減額されます。たとえば、給与35万円+年金20万円=合計55万円なら、4万円超過 → その半分=2万円が年金から差し引かれます。
つまり、働きながら年金を受け取ることは可能ですが、一定以上の収入になると「働くほど年金が減る」仕組みになっているということです。
🔹 65歳未満の場合はより厳しい
60〜64歳の在職老齢年金では、合計28万円を超えると支給停止の対象になります。
多くの人は退職後に再雇用で働く時期にあたるため、給与と年金を同時にもらうと大きく減額されるケースが少なくありません。
再雇用のタイミングで「一度年金受給を停止する」選択を取る人も多く、65歳以降に繰下げを選ぶことで、減額を避けつつ年金を増やす戦略も考えられます。
🔹 ポイントまとめ
- 支給停止の基準:65歳以上=月51万円、65歳未満=月28万円
- 超過分の半分が年金からカットされる
- 退職・再雇用のタイミングで繰下げ受給を検討すると有利
パート収入の目安と税・社保の“壁”/手取り最大化ミニ戦略
一方で、配偶者やシニアがパート勤務で働く場合には、税金・社会保険の「壁」が重要になります。特に年金受給世帯では、扶養や保険料負担の有無によって手取りが大きく変わるため、「どのラインまで働くか」を意識することがポイントです。
| 壁の金額 | 主な内容 | 手取りへの影響 |
|---|---|---|
| 103万円の壁 | 所得税がかからないライン(配偶者控除あり) | 税負担ゼロ/扶養内 |
| 106万円の壁 | 社会保険加入義務(勤務先要件あり) | 厚生年金・健康保険に加入、手取り減少 |
| 130万円の壁 | 扶養から外れて本人が社保加入 | 保険料負担が発生し、実質手取りが減る |
| 150万円・201万円の壁 | 配偶者特別控除が徐々に縮小 | 所得税・住民税が段階的に増える |
年金受給中の人がパートで働く場合、106万円または130万円を超えるかどうかが最も大きな分岐点です。この壁を超えると社会保険料がかかり、月あたり1〜2万円の負担増になることがあります。
ただし、将来的な厚生年金額の上乗せもあるため、短期間で終える仕事なら扶養内、長く続けるなら社保加入という選択が合理的です。
働きながら年金を受け取ることは、決して損ではありません。重要なのは、「どこまで働くと損になるか」「世帯全体でどう最適化するか」を知ることです。次章では、こうした働き方以外に影響する「配偶者・加給年金」など、家族構成によって変わる特典と注意点を整理していきます。
年金はもらえなくなる? 将来見通しと制度の維持システム
「いずれ年金はもらえなくなる」と耳にすることがあります。
しかし、実際の制度設計や財政検証の仕組みを見ると、“制度そのものがなくなる可能性”は極めて低いことがわかります。ここでは、年金制度がどう支えられているのか、そして将来どんな変化が起こるのかを整理します。
賦課方式+国庫負担という“2本柱”
日本の公的年金制度は、「賦課方式」という仕組みで運営されています。これは「現役世代の保険料で、今の高齢者の年金を支える」仕組みであり、世代間の“助け合い”が前提です。
さらに、国民年金(基礎年金)の財源のうち約半分は国庫負担(税金)でまかなわれています。つまり、保険料だけでなく税金によっても支えられているため、単純に「人口が減る=年金がなくなる」という構図にはなりません。
💬 ポイント
年金は「保険料+税金」で維持される社会インフラであり、民間保険や投資とは異なる“公的保障の基盤”として位置づけられています。
財政検証と所得代替率の目標
年金制度は、将来の持続性を確認するために5年に1度「財政検証」が行われます。この中で最も重要な指標が、所得代替率(現役世代の手取り収入に対する年金の割合)です。
政府はこの所得代替率を50%以上に保つことを制度の維持目標としています。つまり、「現役時代の手取りの半分程度は年金で確保できるようにする」ことが法的な基準です。
2024年の財政検証では、過去30年間と同程度の経済成長が続くシナリオを前提に、2057年時点でも所得代替率50.4%を維持できる見通しが示されました。この結果からも、制度が破綻する可能性は非常に低く、段階的な調整で持続されることが確認されています。
制度破綻の可能性は低いが、給付水準は少しずつ下がる
年金制度は法律に基づく国の責務であり、廃止することは極めて難しい仕組みです。
ただし、将来的な課題もあります。
少子高齢化により現役世代が減る中、年金財政のバランスを保つために、
- 保険料率の引き上げ
- 支給開始年齢の繰り下げ
- 給付水準の段階的な引き下げ
といった調整は今後も避けられません。 つまり、制度は続くが「もらえる額」は少しずつ減るというのが現実的な見通しです。
悲観しすぎず、“自助の積み上げ”が前提の時代へ
こうした見通しの中で重要なのは、「年金に頼らない」のではなく、「年金+自助(NISA・iDeCoなど)」の二本立てで備えることです。公的年金は「生涯もらえる最低限のベース収入」であり、それに上乗せして、自分で積み立てる資産を作っていく時代になっています。たとえば、
- NISAで老後の取り崩し資金をつくる
- iDeCoで節税しながら将来の年金を上乗せする
- 配当や投資信託を「自分年金」として育てる
といった取り組みが、結果的に“将来の安心”をつくります。
- 年金は「賦課方式+国庫負担」の仕組みで維持され、破綻の可能性は低い
- 所得代替率は50%維持を目標としており、段階的な調整で安定を図っている
- NISA・iDeCoなどの「自助の仕組み」を活用し、“自分でつくる年金”を整えていくことが重要
次章では、こうした制度を踏まえ、FIRE・セミリタイア世帯にとっての出口戦略(年金×配当×iDeCo/DCの三本柱)を解説します。
受け取り方法と手続き:最短ルート解説
「年金の受け取りって、どうすればいいの?」「いつ振り込まれる?」
──そんな疑問を持つ人のために、この章では最短ルートで理解できる“受け取りまでの流れ”を整理します。手続きのタイミングを逃すと支給が遅れることもあるため、基本をしっかり押さえておきましょう。
初回手続きの流れ(通知→申請→振込/偶数月に2か月分)
年金の受給は自動では始まりません。
65歳(または繰上げ・繰下げ希望年齢)の約3か月前に「年金請求書(緑色の封筒)」が届きます。これをもとに、受給申請を行うのが最初のステップです。
- 通知受取:誕生月の約3か月前に「年金請求書」が届く
- 必要書類を準備:年金手帳・マイナンバー・本人確認書類・振込先口座の通帳コピーなど
- 年金事務所または郵送で申請(最寄りの年金事務所・共済組合へ)
- 審査・決定通知:申請後1〜2か月で「年金決定通知書」が届く
- 振込開始:偶数月(2・4・6・8・10・12月)に前2か月分をまとめて支給
たとえば、4月・5月分は6月15日に振込まれます。初回のみ「初回支払い月」がずれる場合もあるため、申請は誕生月の前月までに完了しておくと安心です。
💡 ワンポイント:
受給開始時期を遅らせたい(繰下げ受給)場合は、請求書を提出しなければ自動的に“未請求”扱いとなり、後から繰下げ請求が可能です。
口座変更・銀行選びのポイント
振込口座は、本人名義の銀行口座であれば自由に指定できます。ただし、金融機関によっては「年金受取専用サービス」や「ポイント還元」などの特典があるため、年金専用口座を選ぶことでお得になるケースもあります。
| 比較項目 | 内容 |
|---|---|
| 利便性 | メインバンクにまとめて管理したいか、別口座で分けたいか |
| ATM手数料 | 引き出し頻度が多い人は無料回数の多い銀行を選ぶ |
| 特典 | ゆうちょ銀行・三井住友銀行・楽天銀行などでは、年金受取特典(ポイントや金利上乗せ)がある |
| 変更手続き | 口座変更は「年金事務所・銀行窓口・郵送」のいずれかで可能(所要1〜2か月) |
特にネット銀行(例:楽天銀行・PayPay銀行)は、年金受取でもキャンペーン対象になることがあるため、「家計と連携しやすい銀行」を選ぶのも一つの戦略です。
ねんきんネット見込額試算の使い方(注意:前提条件)
将来の受給額を把握したい場合は、日本年金機構の公式サイト「ねんきんネット」が便利です。自分の加入記録・見込額をオンラインで確認でき、受給年齢を変えた場合のシミュレーションも可能です。
- マイナポータルまたは利用者IDでログイン
- 「年金見込額試算」メニューを選択
- 希望の受給開始年齢(60〜70歳)を設定
- 将来の受取見込額を確認(繰上げ/繰下げの比較表示あり)
ただし、試算値は現在の賃金水準や保険料を前提にした“名目値”であり、物価や賃金の変動、加給・振替などの個別条件は反映されません。あくまで「現時点の目安」として活用するのがポイントです。
🔍 注意:
共済年金加入歴がある人や、複数の年金制度にまたがる人は、正確な見込み額を知るには年金事務所での照会が確実です。
- 年金は自動では支給されない。誕生月の3か月前通知→申請→偶数月支給が基本ルート
- 口座は本人名義であれば自由。年金特典つき銀行の活用もおすすめ
- 「ねんきんネット」で将来試算できるが、前提条件(賃金・物価・制度)に注意
年金の出口戦略:配当×年金×iDeCo/DCの“3本柱”
老後の資金設計では「いくら貯めるか」だけでなく、どの資産から、どの順番で取り崩すかが最も重要になります。これが、いわゆる「出口戦略」です。
多くの人にとって、老後の収入源は次の3本柱で構成されます。
- 公的年金(老後のベース収入)
- iDeCo/企業型DC(私的年金・退職金の延長)
- 配当金や運用益(生活の上乗せ・ゆとり費)
この3つを時期と税制のバランスを考えて組み合わせることで、生活の安定と手取りの最大化を両立できます。
基本は65歳受給(実務負荷が小さく、制度副作用も少ない)
公的年金は60歳から繰上げ受給、70歳まで繰下げ受給が選べます。ただし、60歳からの繰上げは一生減額、70歳からの繰下げは受給までの生活資金が必要になります。最もバランスが良く、制度上の副作用が少ないのが「65歳開始」です。税・社会保険・加給年金などの制度にも整合しやすく、受給手続きもスムーズです。
また、繰下げを検討する場合には「繰下げを“買う”発想」が有効です。たとえば、配当金や預貯金で65〜70歳の生活費をまかない、年金を70歳まで繰下げると、1年あたり+0.7%、5年で約8.4%の増額が確定します。
💡 ポイント
- 基本は65歳受給で実務もシンプル
- 余力がある人は、つなぎ資金で繰下げを“買う”選択肢もあり
iDeCo/DCの一時金×年金受取の税控除使い分け(退職所得控除/公的年金等控除)
iDeCoや企業型DC(確定拠出年金)は、受取方法によって税優遇が異なります。
主な選択肢は「一時金」と「年金受取」の2つです。
一時金受取(退職所得控除)
- 適用控除:退職所得控除(勤続20年超で年70万円×年数)
- 例:勤続30年=控除額1,500万円まで非課税
- 退職金と同時期に受け取ると控除枠を共有し、課税対象が増える可能性あり
- ただし、「10年ルール」を活用すれば再び控除枠が使える
(=退職金受取から10年以上あけて受け取ると、別枠で控除が適用)
年金受取(公的年金等控除)
- 適用控除:公的年金等控除(65歳以上=年110万円)
- 公的年金と合算されるため、課税所得の分散効果あり
- 所得を安定化させたい場合に向いている
💬 出口戦略のコツ
退職金とiDeCo/DCを同時期に受け取らず、10年以上ずらすだけで非課税枠を再利用できる。税負担を抑える最大のポイントは「タイミング設計」にあります。
わが家の型:定期収入=配当+年金、ゆとり費はインデックス取り崩し
出口戦略の目的は、「安定した定期収入」と「長期的なゆとり」を両立させることです。わが家では、臨時収入は想定せず、毎月の定期収入で生活を維持し、ゆとり費(旅行・教育・趣味など)は運用資産から計画的に取り崩す設計としています。
- 定期収入(30〜40万円):
公的年金+高配当ETFの配当金(VYM・HDV・SBI欧州高配当など) - ゆとり費(年間100〜200万円):
インデックス投資(約5,000〜6,000万円)を年数%ずつ取り崩し
このように“定期収入=生活費”と“インデックス運用=余裕資金”の分離ができると、年金制度の変化に左右されにくく、メンタル面でも安心感があります。
👉我が家の老後シミュレーションの詳細が知りたい方はこちら
- 出口戦略では「受け取る順番」と「税のタイミング」がカギ
- iDeCo/DCは10年ルールを意識して、退職金とずらす
- 年金+配当で生活費を支え、インデックス資産でゆとりを作る
公的年金を軸に、税優遇を活かしながら、“安定・成長・ゆとり”をバランスよく組み合わせることが、これからの老後資金設計のスタンダードになります。
年金を生かした将来設計を始めよう
老後の生活設計を考えるうえで、年金制度は「土台」でありながらも、税・社会保険・投資とのバランス設計が欠かせません。
これまでの章では「受給のタイミング」「手取りの構造」「制度リスク」「出口戦略」など、年金を“受け取るだけでなく、活かす”ための基礎を整理してきました。最後に、ここまでのポイントを3行でまとめます。
- 判断基準は “可処分(手取り)” で考えること
- 60/65/70歳の損益分岐点を理解し、繰上げ・繰下げの判断を数字で行う
- ねんきんネット×家計キャッシュフロー表 で「自分の最適解」を可視化する
年金は「もらう」よりも「どう活かすか」で差が出ます。税や社会保険料を含めた“手取り”を基準に、他の資産(iDeCo・配当・貯蓄)とのバランスを設計することで、制度改正に左右されない“再現性のある生活設計”が可能になります。
老後資金を計画的に積み上げたい人は、以下の記事もあわせて読むと理解が深まります。年金は「制度任せ」ではなく「自分設計」へ。この記事が、あなたの将来設計を見直す第一歩になれば幸いです。
💰 【制度改正まとめ】2025〜2026年に変わるお金の仕組み
🧾 【2025年版】iDeCoと企業型DCの違いと併用のポイント
└ 出口戦略での税控除・併用ルールを詳解
🛡️ 【備えの制度まとめ】遺族年金・障害年金・医療費控除の仕組み
Q&A|よくある疑問をまとめて解決
本文で触れきれなかった部分や、読者からよく寄せられる質問を簡潔に整理しました。
複雑に見える年金制度も、ポイントを押さえればシンプルに理解できます。
加給年金は共働きでももらえますか?
原則として、夫が厚生年金に20年以上加入+妻が65歳未満で厚生年金未加入なら支給対象です。ただし以下のケースでは支給停止・消滅することがあります:
- 妻が自分で厚生年金に加入した
- 妻が60歳未満で年金を繰上げ受給した
- 夫が70歳前に退職し、在職老齢年金の対象になった
つまり、「専業主婦の妻+現役会社員の夫」というモデルで最も多く見られるケースです。
第3号被保険者(専業主婦)は将来どうなりますか?
第3号被保険者制度は、夫の厚生年金保険料の一部で妻の基礎年金をカバーする仕組みです。
よく「3号は得をしている」と言われますが、将来的には見直しが議論対象になっています。
ただし、現行制度では継続中。共働きやパート加入(106万円の壁撤廃)によって3号該当者が減る傾向にあり、「自分で保険料を払って将来の受給額を増やす」方向に政策がシフトしています。
働きながら年金をもらうと損しますか?
65歳以上で「年金+給与」が月47万円を超えると一部支給停止となる「在職老齢年金制度」があります。ただし支給停止=損ではありません。停止された分は将来の年金額に加算(再評価)されるため、長期的には“繰下げと同じような効果”が得られます。
パートや短時間勤務であれば、47万円ラインを下回るケースが多く、年金を受け取りながら働くことは十分に可能です。
夫が亡くなった場合、妻の年金はどうなりますか?
夫が厚生年金を受給していた場合、妻は遺族厚生年金を受け取れる可能性があります。
ただし、夫婦の年齢差や妻の加入状況によっては金額が変わります。たとえば、専業主婦(3号)の場合は夫の年金の4分の3程度が支給されるのが目安。
一方、共働き世帯では自分の老齢厚生年金が優先され、遺族厚生年金が一部調整されます。
将来、年金は減りますか?なくなることはありますか?
制度そのものが“なくなる”可能性は極めて低いです。年金は「賦課方式+国庫負担」で支えられており、財政検証でも所得代替率50%以上を維持目標にしています。
ただし、少子高齢化の進行により、給付水準は徐々に調整(減額)される見通し。今後は「年金+自助(NISA・iDeCo)」で備えることが前提になります。














